
人間は牛の角を抜くことにより、本来持っている動物としての特徴を奪い去ってしまった。「自分を守る」という本能さえもね。
そして牛を単なる動く肉の塊や、歩く牛乳運搬器にしてしまったんだ。僕は人間の手によって奪われ、捨てられた牛の角を救い出した かった。
「角が生えた牛乳パック」を通して訴えたかったことはね、「僕ら人間は、牛という動物にとんでもない苦しみを与えているんじゃないか?」という ことさ。
これはいずれ人間自身の身に降りかかる問題だろうね。「善良な人々」は、日々の生活の中で気づかない間に 人間が本来持っている牙を抜かれていく。少しづつ、少しづつ・・・。そしてある日、その牙が全くなくなった時、 僕たちは「支配する側の人間」に対して何の抵抗もできない動物になるわけさ。それがやつらの目的だけどね。
いや、これはほんの冗談から。
シャルメイの村で画商をしている知人と、展覧会の後片付けをしている最中のこと。
(画商)「来週ポヤの展示を予定しているけど、あんたも出品してみるかい?」と軽い冗談。
(僕)「よし、わかった。ビックリ仰天するなよ!」
(画商)「おう、そりゃ楽しみだ!」
・・・と相成り、僕はすぐ本当に制作に取りかかったんだ。
残された時間は僅か。でもアイデアはすぐに浮かんできた。一週間後に完成した作品を持ち込んだのが、 最初の「テトラ・ポヤ」だったという訳。
最初はハーレイのバイクに装飾用の絵を描いていたんだ。その後15年の間、手探りで自分のやるべき仕事を追及した。 そして単なる「バイクの装飾家」ではない、芸術家としての自分のスタイルを確立したんだ。バイクや自家用車の 装飾を引き受けていただけでは、これは難しかっただろうね。新たな芸術の世界に足を踏み入れ、そこで生活の糧を 得ることができるようになった。
最初の作品を制作中に既に買い手がついたことで、次の作品に向かう意欲が沸いてきた。そして「テトラ・ポヤ」の作品を きっかけとして、全く新しい世界が広がってきたんだ。僕の作品も認められ、広く求められるようになってきた。
絵画の次は彫刻。3次元で表現するこの新たな世界に、すっかり魅了させられてね・・・。「テトラ・ヴァッシュ」も その作品のひとつになるね。
車両装飾の世界では、スプレーが広く使われている。僕はこの技術に精通していたので、自然な流れだった。自分にとってスプレーは手の延長のようなもので、絵筆や鉛筆よりも自在に扱うことができる。でも決して必要以上には使うことはないんだ。
今は反対に、なるべく使わないようにしている。スプレーを使うには、いろいろな技術が必要になる。でもそれが時として創作の邪魔になることがあるんだ。例えば書き直したい部分を消す時、スプレーでは時間がかかりすぎる。全身全霊で作品にとりかかっている時には、却って制作の邪魔になったりするんだ。
ホテル、レ・ナシオンのオーナー、フィリップ・ギュナからの提案に、あまり深く考えずに引き受けたのが本当のところなんだ。僕が責任感というものをを重く受け止めてしまうタイプの人間だったら、きっと断っていただろうね。ほら、芸術家は子供のままの純真なハートを失わない、なんて言うだろ。「こりゃえらいことになった・・・」などと制作の途中で考えるのは止めちまった。そしてこう考えることにしたんだ。「フィリップも僕も、もともと正気じゃなかったんだ。なぜかって? あの男はこんな僕を信じた。そして僕は無謀にもイエスと言っちゃったから!」
でもフィリップには「正気じゃなかった」なんて言うなよ。彼は僕を信じてくれた。そこが重要な点だよね。今度は僕がその期待に応える番さ。
除幕式は10月6日に決定。もう後戻りはできない。きっとすごい作品になるよ!
正確には判らないね。芸術家は時間給で働いているわけじゃないから。「これで満足」なんてことは無い。特に芸術家の魂を揺さぶるような仕事にはね。
そうじゃなければ、かかる時間に対してざっと見積もりを出すことはある。周りの画商や友人の助けを借りてだけど・・・。
フィリップは僕を信頼してくれた。好きにやらせてくれた。このプロジェクトを話し合った時点から、これはお互いの信頼をベースに進めるしかないと思ったんだ。「10月6日のオープニングまでに完成」これがたったひとつの約束だったさ!
アーティストはいつもアイデアを温めているからね。それも仕事の内かな。その中で少しずつ形になってくるものもあるし、突然に湧きあがるものだってある。いくつかのアイデアの中から、何に光を当てるか迷っている、そしてその最中に突然新しいものが沸き出る・・・。そんな状態が理想だね。
このところ「ナシオンのポヤ」に没頭してきたからね。なかなかこれに匹敵するアイデアは難しい。
でもこの2年の間ずっと温めている構想があんだ。それはね、等身大の「テトラ牛」さ。グリュイエール城の敷地の中にね・・・。
城主も「それは面白い!」って言ってくれたよ。
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